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神戸地方裁判所 昭和44年(ワ)1007号 判決 1974年5月08日

原告

樽味宏

ほか三名

被告

神戸重量運輸株式会社

ほか三名

主文

一  被告神戸重量運輸株式会社及び同三菱重工業株式会社は各自、原告樽味宏に対し金九万九九〇〇円、同樽味操に対し金四〇五万円、同樽味寿に対し金一四万円及び右各金員に対する昭和四二年九月一〇日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告樽味宏、同樽味操、同樽味寿の被告神戸重量運輸株式会社、同三菱重工業株式会社に対するその余の請求及び同上組陸運株式会社、同株式会社上組に対する請求及び原告越智寿恵子の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、被告神戸重量運輸株式会社及び同三菱重工業株式会社と原告樽味宏、同樽味操、同樽味寿各自との間においては、それぞれ同樽味宏に生じた費用の六〇分の一を、同樽味操に生じた費用の二〇分の三を、同樽味寿に生じた費用の一〇〇分の三を被告神戸重量運輸株式会社及び同三菱重工業株式会社の負担とし、その余は各当該原告等の負担とし、被告上組陸運株式会社及び同株式会社上組と原告樽味宏、同樽味操、同樽味寿との間において生じた分は全部各原告樽味宏、同樽味操、同樽味寿の負担とし、被告ら四名と原告越智寿恵子との間において生じた分は全部同越智寿恵子の負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告樽味宏に対し金六〇〇万円、同樽味操に対し金二、八五〇万円、同樽味寿に対し金四七〇万円、同越智寿恵子に対し金二〇〇万円及び右各金員に対する昭和四二年九月九日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告神戸重量運輸株式会社、同上組陸運株式会社、同株式会社上組及び同三菱重工業株式会社)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  身分関係

原告樽味宏は夫、同樽味操は妻、同樽味寿は右両名の子、同越智寿恵子は原告樽味操の母である。

(二)  事故の発生

左記交通事故(以下本件事故という。)が発生した。

(1) 事故発生日

昭和四二年九月九日午後二時三〇分頃

(2) 発生場所

神戸町須磨区若宮町一丁目一番地先路上

(3) 加害車及び運転者

トラツク(神戸一を六六一三号・八トン車、以下事故車という。)

村上豊

(4) 被害者

原告樽味操及び同寿

(5) 態様

事故車がトンネルマシン用鉄枠(約一一トン)と鉄板(約一一三六キログラム)を積載して運行中、鉄板が縛着されていなかつたので落下し原告樽味操、同樽味寿に当つた。

(6) 事故の結果

原告樽味操は、本件事故により右側観骨と鼻骨の各骨折をともなう右側上顎骨の著しい陥没骨折、骨盤骨折、腰椎第四、五横突起(左)骨折、左大腿骨開放骨折、全身打撲等の傷害を受け、その結果(イ)右眼窩部の陥凹、眼球位の不均衡化、鼻変形、前額部から右上眼瞼部にかけての瘢疵等々による顔ぼうの著しい変形、(ロ)矯正不能の著しい複視、極度の視力減退、眼球運動障害、(ハ)著しい開口障害、かみ合せ不適合、右側での咀嚼不能、奥歯二本等の欠損、(ニ)右側鼻づまり、嗅覚減退、(ホ)眼凹部、鼻右側、頸関節部などの疼痛、偏頭痛、顔面の一部の神経麻痺、(ヘ)骨盤変形、腰部脱力感、(ト)左大腿の内反と左下肢長の不均衡化、左膝関節の甚しい運動障害(可動域は一五五度―一七〇度の間だけ)、左大腿下1/3部にある傷痕の著しい醜形、(チ)後頭部と左手の皮膚の傷痕、(リ)感情不安等の後遺障害を残した。

原告樽味寿は、本件事故により前額部剥皮創、頭部外傷第Ⅱ型、頭蓋骨骨折の傷害を受け、その結果前額部より左上眼瞼を経て左耳に及ぶ長大且つ著しく醜い瘢痕の後遺障害を残した。

(三)  責任原因

被告らは次の理由により本件事故により蒙つた原告らの損害を賠償する責任がある。

(1) 村上豊は、本件積荷の確認に周到さを欠き鉄板の存在に気付かず、これを縛着せず漫然と事故車を運転進行した過失により、本件事故を惹起したものであるから、民法第七〇九条による責任がある。

(2) 被告神戸重量運輸株式会社(以下神戸重量という。)は、事故車を所有しているところ、村上豊を使用し、村上が事故車を運転して神戸重量の業務を執行中、前記(1)のような過失により本件事故を惹起させたのであるから、事故車を自己のため運行の用に供していたものとして自賠法第三条により、仮にそうでないとしても民法第七一五条第一項による責任を負う。

(3) 被告上組陸運株式会社(以下上組陸運という。)は、神戸重量を専属的下請とし、事故車の運転台の扉、荷台に上組陸運の社名を表示し、更に自社使用車両に用いる通し番号を表示し、本件事故の際も現実に自己の指揮監督の下に神戸重量に本件積荷の運送を下請させたのであるから、民法第七一五条第一項により、仮にそうでないとしても事故車を自己のため運行の用に供していたものとして自賠法第三条による責任を負う。

(4) 被告株式会社上組(以下上組という。)は、その指揮監督の下に上組陸運更に同会社を通じて神戸重量に本件積荷の運送を下請させた。ところで上組陸運は上組の貨物自動車部門が分離したもので、上組が全額出資し、本件事故当時も上組代表者が上組陸運の代表者を兼ね、その他共通の取締役数名をもち、更に上組が上組陸運に幹部社員を出向させ、上組の大阪、広畑の支店内に上組陸運の営業所をおき、両会社は同じ会社のマークを使用し、上組が上組陸運を事実上支配し、上組陸運は主として上組の下請をしていた。本件運送についても被告上組は被告三菱重工との運送契約において、被告上組は、被告三菱重工の承諾を得て下請させるときも被告上組が全て第一次責任者として作業を実施すること、及び下請業者に対する安全管理を徹底させることを約していた。従つて本件事故車の運行は実質的には上組自身による運行であり、上組は民法第七一五条第一項により、仮にそうでないとしても事故車を自己のため運行の用に供していたものとして自賠法第三条による責任を負う。

(5) 被告三菱重工業株式会社(以下三菱重工という。)は、同会社神戸造船所から同会社明石工場までトンネルマシン用鉄枠、鉄板の運送を上組をして請負わせたものであるところ、三菱重工の従業員が同会社神戸造船所内において同会社のクレーンで事故車に本件トンネルマシン用鉄枠、鉄板を積載したが、その際同会社は車両の法定積載量を全く無視した積込みを行い、車両並びに積荷の安定が走行中に失われる著しい危険を生じさせた。この運送は同会社の近距離にある工場間のもので、同会社はこの運送中も積荷をなお管理していたが、本件事故は鉄板の未縛着と極端な超過積込による不安定とか相まつて起るべくして起つたものでいずれの点についても三菱重工の従業員の不注意がこの事故の重要原因となつた。

仮に同会社が運送中の積荷の管理をしていなかつたとしても、同会社従業員は同会社神戸造船所において同会社のクレーンで事故車に本件鉄板をトンネルヤシン用鉄枠と区分せずその上にのせたまま一括して積載したが、その積載方法は異例であつただけでなく、トンネルマシン用鉄枠の長さは事故車の荷台の長さに近く、その幅は荷台の幅より広く(二・六メートル)、重量は一一トンという大積載物であつたため、積載並びに縛着作業者がトンネルマシン用鉄枠に注意を奪われ、しかもトンネルマシン用鉄枠の縛着は自動車の荷台に上らず下から行うことができ、本件もその方法で行なわれたため、その上方にたまたま載せられていた長さ一・九メートル以下の本件鉄板を見落し易い状態にあつた(実際運送者側作業者は村上ほか数名いたが、いずれも鉄板の存在を見落した。)。そして鉄板が極めて滑り易い性質のものであること、自動車の安定を無視した極端な超過積込をなしたこと。事故車は人や車両の極めて多い市街地を運行すること等と相まつて事故発生のおそれを極めて大きいものとした。三菱重工はこのような超過積込による運送の注文、指図をしてはならなかつたとともに、右のような事故発生のおそれが多大にある状態の下において、その危険状態をつくり出している当事者として当然事故回避のため運送担当者に対し鉄板が積荷の上に載せられていることを告知するなどその注意を喚起するべき注意義務があるのに、これを怠り、不注意にも積込、発送指示並びに出門の際の保安点検の際いずれも何らの措置をとらず本件事故を惹起させた。従つて三菱重工は民法第七一六条但書により、仮にそうでなくとも民法第七一五条第一項により、仮にそうでなくとも民法第七一七条の類推適用により責任を負う。

(四)  損害

1 原告樽味操関係

(1) 逸失利益 左記金額のうち金二一〇〇万円

原告操は、神戸大学教育学部を卒業し、昭和三六年四月より神戸市内の小、中学校の教師として奉職していたところ、原告宏との間の子原告寿の育児に専念するため昭和四〇年年末に一旦退職したが、遅くとも昭和四五年四月には教職への再就職を予定していた。

(イ) 主婦としての損害

原告操は、本件事故当時、満二九才の主婦として、昭和四三年政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準の月収三万四八〇〇円相当の収入をあげえたであろうところ、本件事故により前記の通りの傷害のため昭和四五年三月まで(三一ケ月)主婦として休業を余儀なくされた。そこでホフマン式計算法により月5/12%の割合による中間利息を控除して現在の価額を算出すると原告操の得べかりし利益の総額は金一〇一万二六一〇円となり、同額の損害を蒙つた。

34,800×29.098(ホフマン係数)=1,012,610

(ロ) 教師としての損害

(Ⅰ) 原告操は、昭和四五年四月には教師として再就職し(満三一才三ケ月)、満五八才までは教師として稼働しうるものと考えられるところ、前記のような本件事故による後遺症のため収入を得る能力を全く喪失した。そこで教師としての給与、賞与の本件事故当時の現価を(毎月支給されるものであるから月毎に)ホフマン式により月5/12%の割合による中間利息を控除して算出すると別表(四)のとおりで、その合計額は金二九三三万六四三四円となる。

(Ⅱ) 退職手当(三五二ケ月後)の本件事故時の現価をホフマン式計算法により中間利息を控除して計算すると金二五三万九六一二円となる。

最後の給料(142,400円+教職調整額5,696円)=148,096円 (注)

148,096円×423(公立学校職員等の退職手当に関する条例第5条の勤続年数26年余に対する数値)×0.4054(ホフマン係数)=2,539,612円

(注別表(四)参照)

(Ⅲ) 退職年金の本件事故時の現価をホフマン式計算法により中間利息を控除して計算すると金六四一万一三三七円となる。

1,746,576円(最後の3年間(昭和69年1月から昭和71年12)の平均年額(給与月額と教職調整額)×(40/100+1.5×11/100)(地方公務員等共済組合法に定める在職期間合計31年(最初の4年9ケ月も含める)の数値)=986,815円(1ケ年の支給額)

(之は地方公務員等共済組合法第78条による計算に基づく)

そして昭和46年度簡易生命表によれば同年における原告操と同年令の日本人女子の生残年令は44.5才であり58才退職後退職年金受領は19.5年(原告操77.5才まで可能であるからこの年令をホフマン式計算法で中間利息を控除して算出すると6,411,337となる。

(2) 慰藉料 金八〇〇万円

治療経過、後遺症の程度等から考えて、原告操が本件事故により蒙つた精神的苦痛は絶大なものがあるので、これを慰藉するには八〇〇万円が相当である。

(3) 原告寿の負傷による慰藉料 金一〇〇万円

2 原告樽味宏関係

(1) 雑費 左記のうち金一〇〇万円

病院代 二万三七八五円

医薬品 一万七九二〇円

歯科治療費 三〇円

メガネ 二万円

氷代 四一八〇円

進物、謝礼、附添心づけ 一七万八〇〇一円

附添婦心づけは原告操の傷害が余りにも重傷のため附添婦が之を嫌つたため支出せざるを得なかつた。

交通費、宿泊費 一三万七二〇五円

電話 二五六一円

入院のため必要となつた用品 八万一四〇二円

新聞、雑紙類 一万四五五〇円

運動に必要な用具 六七〇円

栄養費 一四万三二〇六円

原告操の化膿が激しく医師の指示により体力をつけるため特に摂収した。

本件第一審着手金 三五万円

(2) 原告操の負傷による慰藉料 金四〇〇万円

本件事故は死亡に勝る程の例であるところ、原告宏は妻操の負傷、後遺症等により蒙つた精神的苦痛は絶大なものであるので、これを慰藉するには四〇〇万円を相当とする。

(3) 原告寿の負傷による慰藉料 金一〇〇万円

3 原告樽味寿関係

(1) 逸失利益 金一五〇万円

原告寿は祖父母及び父母の教育程度、職歴から考えて、将来相当の教育を受けたのち、成人として生涯に亘り、通常の男子一般労働者の平均賃金を遙にこえ、少くとも母操と同程度の収入をあげえる職につきえたといえる。ところが本件受傷により顔面に前記のような大傷痕を残し右は労働基準法施行規則所定の身体障害等級表及び労働基準局通達別表労働能力喪失表により喪失率一四%であるから、右による得べかりし利益の喪失は一五〇万円をこえる。

(2) 慰藉料 金二〇〇万円

本件事故による受傷、後遺症の程度等から考えて、原告寿が本件事故により蒙つた精神的苦痛は絶大なものであるので、これを慰藉するには二〇〇万円が相当である。

(3) 原告操の負傷による慰藉料 金一五〇万円

4 原告越智寿恵子関係

原告操の負傷による慰藉料 金二〇〇万円

(四)  損害の一部填補

原告操、同寿は本件事故により蒙つた損害の填補として原告操において自賠責保険金一五〇万円(後遺障害補償費)、四〇万七四五七円(うち慰藉料五万円、後遺障害補償費三一万円)の給付を受けたが、原告操については前記請求中に右填補額を含まず、原告寿については、前記請求中に慰藉料五万円及び後遺障害補償金一万円が含まれているので、計六万円を控除する。

(六)  よつて被告らは各自原告宏に対し金六〇〇万円、同操に対し右損害残金の内金二八五〇万円、同寿に対し右損害金の内金四七〇万円より六万円を控除した四六四万円、同越智寿恵子に対し金二〇〇万円及び右各金員に対する昭和四二年九月九日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(神戸重量)

請求原因(二)(1)(2)(3)(4)(5)及び(6)のうち原告操、同寿が負傷したことは認める。

同(三)(1)は否認し、(2)のうち神戸重量が事故車を所有し、村上豊を使用し、村上が神戸重量の業務を執行中本件事故を惹起したことは認める。

同(四)は争う。

(上組陸運)

一  請求原因(一)、(二)(1)(2)(3)(4)(5)及び(6)のうち原告操、同寿が負傷したことは認めるが、同(二)(6)のうちその余の事実は不知。

同(三)(3)のうち、被告上組陸運が本件荷物運送の委託を受け被告神戸重量と本件荷物の運送契約をなし、本件荷物運送中に本件事故を生じたこと、事故車に上組陸運の社名が記入されていたこと。本件事故は積荷の鉄板が事故車に縛着されていなかつたため落下して生じたことは認めるが、その余は争う。

同(四)は争う。

二  被告上組陸運及び被告神戸重量は共に運輸大臣による免許を有する陸上貨物運送業者であり、それぞれ別個に自動車を保有し従業員を雇傭して事業を行つている独立業者であり、唯被告上組陸運が受注する運送が自車で消費しきれないときに、被告上組陸運は被告神戸重量その他数社に対し荷物の運送の下請負させていたのみであつて、被告神戸重量に対し資本の援助、自動車の共同使用、従業者の指揮監督をしたことはない。偶々被告神戸重量の仕事量の約六〇%が被告上組陸運よりの受注によるものであるに過ぎない。

従つて、被告神戸重量は右の受注による貨物を、運行管理者を選任して運行目的を運転者に指示し作業をなしているもので、被告上組陸運は被告神戸重量の自動車運行自体を支配するものではない。このような関係にある以上、被告神戸重量において自己の業務上の便宜のため被告上組陸運の社名を自己の保有車両に表示し、被告上組陸運が之を黙認していた事実があつても、被告上組陸運は自賠法第三条の運行供用者責任を負担するものではない。

(上組)

一  請求原因(一)は不知。

同(二)(1)(2)(3)(4)(5)及び(6)のうち原告操、同寿が負傷したことは認めるが、(二)(6)のうちその余の事実は不知。

同(三)(1)(2)(3)は争う。

同(三)(4)のうち、被告上組が本件荷物の運送を被告上組陸運に請負わせたこと。上組陸運はその設立当初において上組の貨物自動車部門が分離したもので、上組が全額出資し、本件事故当時両社の代表者は兼務していたこと、共通の取締役、出向社員があつたこと、上組の大阪、広畑支店内に上組陸運の営業所があることは認めるが、その余は争う。

同(四)は争う。

二  被告上組陸運は被告上組から全く独立した経営並びに営業形態をとつているもので、被告上組の請負を主とするものでなく、被告上組が被告上組陸運を支配するような関係にはなかつた。唯被告上組と被告三菱重工との間には継続的取引関係があり、上組陸運設立後は、重量物運送については被告上組の重量部で受注し、一般貨物運送については、被告上組陸運で受注することを希望したが、被告三菱重工の社内処理上被告上組が一括受注し、一般貨物については、被告上組陸運に下請させることに双方の了承があつた。

従つて被告上組に被告上組陸運が被告神戸重量に再下請させることを命じたこともなく被告上組陸運と被告神戸重量の関係は関知しないところである。従つて亦被告上組は本件荷物の運送につき被告上組陸運を指揮監督したこともなく又自賠法第三条の運行供用者ではない。

(三菱重工)

一  請求原因(一)は不知。

同二(1)(2)(3)(4)は認めるが、(5)(6)は不知。

同(三)(5)は否認する。

同(四)は不知。

二  被告三菱重工は本件荷物の運送を被告上組に請負わせたものであつて、その運送中の事故は関知しないところである。

三  抗弁

1  (神戸重量―免責の主張)

被告神戸重量には本件事故発生について過失はない。即ち本件鉄板は三菱重工神戸造船所内でトンネルマシン用鉄棒とともに同造船所作業員がクレーンで事故車に積込んだものであるが、一回つりで積込んだためトンネルマシン用鉄枠底部に別個に鉄板十数枚が積重ねられてあることは判らず一個の物体と被告神戸重量の従業員は思つたこと、トンネルマシン用鉄枠の底部に本件鉄板が積重ねてあると同造船所作業員より明示なく、また注意もなかつたこと、過去に数回トンネルマシン用鉄枠その他の部品を運送しているが、かつて鉄板の積重ねなどなく、完全に一個の物体のみを運送していたこと。トンネルマシン用鉄枠の縛着作業は地上からなしえる状態にあつたところ、荷台上に積込まれたトンネルマシン用鉄枠の底部は地上に立つた高さでは見えにくい高さにあり、かつ鉄板はトンネルマシン用鉄枠と同色でその底部に密着していたため一見して別個な物品とは判別し難かつたこと、前日同造船所運輸課から運送作業内容の連絡を受けていたが、積荷の重量については同造船所からの送り状、出荷票等に明示なく被告神戸重量の従業員が点検のうえ、運行上安全と確信して運行していたこと、右のような状況下における鉄板の発見は運送人側としては予見不可能であり、神戸重量側には過失はない。

2  (神戸重量及び上組―過失相殺の主張)

本件事故発生日当時事故発生場所付近は道路拡張工事中で、仮設的な道路で完全な舗装道路ではなく、日夜大型貨物自動車等の通行量が多いため必然的に路肩が下り、ましてカーブになつていたため、特に路面に傾斜がついていたし、道路幅も大型車の対向がかろうじてできる程度の狭い道路であるため、一般歩行者は危険なので極少であつた。又事故現場から四、五〇メートル程西側に須磨水族館前であり、道路も広く国道を横断するには、安全な道路があるのに原告操、同寿は危険を予知できる現場道路を家族連で通行していたことは、本件事故発生について原告操、同寿ら自身にも過失があるものというべく、これを損害額の算定にあたつて斟酌すべきである。

3  (神戸重量―弁済)

神戸重量は本件事故により金一九八万九八三八円を支払つた。

(1) 新須磨病院費 一四万一二九五円

(2) 看護料金 一万五九九〇円

(3) 雑費 六万九九〇〇円

(4) 大阪厚生年金病院費 九七万七三四七円

(5) 看護料金 三一万五九六一円

(6) 白浜温泉病院費 三万三五九二円

(7) 看護料金 八九四七円

(8) 三井物産健康保険組合よりの求償額 四二万六八〇六円

四  抗弁に対する認否

抗弁(一)、(二)を否認する。

同(三)は不知。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因(一)(原告らの身分関係)については、被告上組陸運との間においては当事者に争いがなく、その余の被告との間においては原告樽味宏、同樽味操各本人尋問の結果により認めることができる。

二  請求原因(二)(1)(2)(3)(4)については当事者間に争いがなく、同(二)(5)については被告神戸重量、同上組陸運、同上組との間においては当事者間に争いがない(同(二)(5)について被告三菱重工との間においては後記認定のとおり)。

そこで同(二)(6)(傷害の程度、後遺症について判断する。

〔証拠略〕を総合すると、原告樽味操は、本件事故により前額部挫創、骨盤骨折、左大腿骨骨折、右上顎骨、右頬骨骨折等の傷害を受け、その結果後遺症として左膝関節の著しい機能障害(伸展一七〇度、屈曲一五五度)、右眼窩部陥没、眼球位不均衡、前額部から右上眼瞼にかけての瘢痕による顔貌変形、頻骨骨折に基づく開口障害、右眼球運動障害、極度の視力減退(〇、〇六以下になる)等の障害を残し、その症状は昭和四四年三月一四日に固定し、その間前記の如き症状からして家事労働不能であつたこと、原告樽味寿は、本件事故により前額部剥皮創頭部外傷性第1型、頭蓋骨骨折等の傷害を受け、その結果後遺症として瘢痕は前額部より左上眼瞼を経て左耳に及び著しい醜状を残したことが認められる。

三  被告らの責任原因

(一)  被告神戸重量及び同三菱重工に関し

(1)  〔証拠略〕を総合すると、被告三菱重工は被告上組に三菱重工神戸造船所から同社明石工場までトンネルマシン用シールド部材(鉄枠、鉄板等)の運送を依頼したこと、被告上組は被告上組陸運に、同社は更に被告神戸重量に右積荷運送の業務を下請させたこと、被告神戸重量は本件事故発生日当日三菱重工神戸造船所に右積荷運搬の業務を執行させるため村上豊運転の事故車外五台を派遣したこと、トンネルマシン用シールド部材をトラツクに積込むにはそれが重量物であるため被告三菱重工神戸造船所備付けの同社所有のクレーンを同社従業員が操作して行なわれたこと、被告三菱重工従業員は鉄板(約一一枚)をトンネルマシン用鉄枠の上ににのせたままクレーンで釣上げ、そして事故車に積込んだこと、その際村上豊外被告神戸重量作業員は事故車のトンネルマシン用鉄枠の上に鉄板がのせてあることを被告三菱重工従業員から明示もなく注意も受けなかつたこと、トンネルマシン用鉄枠と鉄板の一括積込は異例であるところ、事故車の荷台上に積載されたトンネルマシン用鉄枠の底部は地上から約一・六メートルで神戸重量の従業員が地上に立つた高さでは見えにくく、またトンネルマシン用鉄枠の幅は約二・六メートルであるが、鉄板は長さ約一・九メートルであり、鉄板はトンネルマシン用鉄枠の底部に密着して存在していたので、鉄板の存在を判別し難い状態にあつたこと、しかも荷台上に積込まれたトンネルマシン用鉄枠の縛着は荷台上に上らずともトラツクの周囲からなしえるし、本件もその方法で行なわれたこと、従つて、村上豊は本件鉄板の存在するのを見落し、トンネルマシン用鉄枠を縛着したのみで、本件鉄板は未縛着のまま事故車は楽に運行可能と考えたこと、本件事故現場は市街地を通る道路で、幅員約八・八メートル、車道は平旦かつ見通し良好な右にカーブしたアスフアルト舗装、交通頻繁な道路であること、村上豊は、事故車を運転して、事故発生日時、事故発生場所付近の右にカーブした道路を時速約二〇キロメートルで北進中、折から右道路左側端において避難していた母子二人連れを発見したが、無事通過できるものと考え、そのまま運行したところ、事故発生場所において本件鉄板約一一枚が事故車の左側路上に落下し、避難していた原告樽味操、同寿に当り、同人らを鉄板の下敷にしたことが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は前掲各証拠と比較対照するときは容易に信用し難い。

(2)  ところで被告神戸重量が事故車の所有者であり、村上豊を使用し、村上が被告神戸重量の業務を執行中本件事故を惹起したことは当事者間に争いがないから、被告神戸重量は免責の主張が認められない限り、事故車を自己のため運行の用に供していたものとして自賠法第三条による責任がある。

そして右認定の事実によると、本件事故は、村上豊が本件道路をトンネルマシン用鉄枠、鉄板を積載して運行するに際し、積載物の積込状況を確認し、運搬中これが転落することのないようロープで縛着する等必要な措置を講じた後発進するべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然トンネルマシン用鉄枠の上に鉄板が積込まれているのを看過し転落防止に必要な措置をとらずに進行した過失により本件事故を惹起したものというべきである。

従つて右のような注意義務の存在を前提としない被告神戸重量の免責の主張は理由がない。

(3)  次に被告三菱重工は本件積荷の運送はすべて専門業者である被告上組に請負わせたのであるから、積荷の運送方法等については運送業者に責任があることで、同社には本件事故についての責任はない旨主張するので、この点につき判断する。

物品運送契約自体は物品の場所的移動を目的とする請負契約であるが、重量物の運送のようにその積込について特殊な機械装置が必要とされる場合において、その積込について運送人が之をすることを約したような場合を除き、積込を荷送人自身がする場合には、その積込にあたつて荷送人としても留意すべき注意義務の存することは当然であり、その注意義務の懈怠が運送人の運送上の注意義務違反と相まつて事故が惹起されたときは、荷送人としても共同不法行為者として損害賠償の責に任ずべき場合があることは否定できない。

之と本件について考えると、前認定の事実によると、トンネルマシン用部材のトラツクへの積込は被告三菱重工側においてそのクレーンでなされたところ本件車両の場合にあつては偶々、被告三菱重工従業員はその会社のクレーンを使用してトンネルマシン用鉄枠と一括して本件鉄枠をトラツク荷台に積載したが、その積載方法は異例で、かつ右鉄板はトンネルマシン用鉄枠と判別困難であり本件鉄板がトンネルマシン用鉄枠と共に積込まれていることが外見上看過し易い状態におかれていてトンネルマシン用鉄枠のみを自動車に縛着したまま鉄板の存在を看過し、鉄板を未縛着のままトラツクが進行するときは、鉄板が落下する危険があることは明かであるから、このような場合、積込にあたつた被告三菱重工従業員は、トンネルマシン用鉄枠の底部に鉄板が積込まれている旨を運転者に告知し、縛着の措置をとるよう注意すべき注意義務があるものと云うべきである。しかるに、被告三菱重工の積込にあたつた従業員は右注意義務を怠つた結果、事故車の運転者村上は、鉄板が積込まれていることを看過し、鉄板を車両に縛着しないまま事故車を運転した過失と競合して本件事故を惹起したもので、被告三菱重工の右従業員にも過失があると認めるべきである。そして前認定の事実によると、被告三菱重工は、クレーン操作にあたつた作業員を使用し、右従業員が被告三菱重工の業務を執行中前記のような過失があつたのであるから、被告三菱重工は民法第七一五条第一項による責任がある。

(二)  被告上組陸運及び同上組に関し

(1)  被告上組陸運の責任原因について判断する。

事故車に被告上組陸運の社名が記入されていたことは当事者間に争いがないが、〔証拠略〕を総合すると、被告上組陸運及び同神戸重量は運輸大臣による免許を有する独立の運送業者であつて、被告上組陸運は自社で運送しきれない貨物の運送を被告神戸重量外数社の運送業者に下請させることにしていたこと、他方被告重量は、全体の仕事量のうち被告上組陸運より下請する仕事が約六〇パーセントを占めているが、自ら独立して運送業をなしていたものであり、両者間に専属的関係はもとより支配従属の関係は存しなかつたこと、本件の場合にあつても、日常の取引に従つて被告上組陸運は同神戸重量に本件トンネルマシン用シールド部材の運送を下請さしたが、特に本件運送契約にあたつて本件事故車による右貨物の運送に関し積込、運送にあたつて具体的に指揮監督をする等関与したようなことはないこと、事故車には被告上組陸運の社名が表示されているが、右事故車には被告上組陸運が日野自動車に下取に出したものを被告神戸重量が買受け自己の業務の便宜のためそのまま使用していたもので、被告上組陸運はその社名表示につき異議を述べたことがあるし、また事故車に表示された通し番号は被告神戸重量自身により書かれたものであることが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は容易に信用し難い。

右認定の事実によると、前記の通り本件事故車には被告上組陸運の社名が表示されている事実があつても、被告上組陸運は同神戸重量及びその被用先村上豊の本件積荷の運送に関し指揮監督関係があつたとは認められないから、民法第七一五条第一項の責任はない。

また右認定の事実によると、被告上組陸運は事故の運行につき運行支配及び運行利益を有したとは推認し難いから、自賠法第三条の責任はない。

(2)  次に被告上組の責任原因について判断する。

被告上組陸運はその設立当初において被告上組の貨物自動車部門が分離したもので、被告上組が全額出資し、本件事故当時両社の代表者は兼務していたこと、共通の取締役、出向社員があつたこと、被告上組の大阪、広畑支店内に被告上組陸運の営業所があることは当事者間に争いがないが、〔証拠略〕を総合すると、被告上組陸運は同上組と親子会社の関係にあるところ、被告上組は元来港湾運送事業を主目的とする会社であつたが、被告上組陸運の独立に伴つて被告上組が請負う陸上運送のうち特殊重量部門に属する運送を除く陸上運送は被告上組陸運が下請するほか被告上組陸運は独自に広く青果関係業者と取引関係を持ち青果物の運送を請負い、それが契約量の七〇%を占め、親子会社と云うものの、その経営、営業は独立した形態をとり元請企業の一部門とし包摂されるような関係にはなかつたこと、従つて両被告会社の関係は専属的下請の関係もなく、また個々的に運送上の注意を与えるなど指揮監督を受ける関係にもなかつたこと、そして被告三菱重工との取引についても以前その陸上運送を被告上組が請負つていた関係上、被告上組陸運独立後も被告三菱重工の契約締結上の都合から全て被告上組が運送人として契約の当事者となり通常の陸上運送は被告上組陸運に下請させていたこと、本件トンネルマシン用シールド部材の運送の場合においても右の関係はかわることなく、被告上組は、被告上組陸運に全面的に請負せたものであつて、被告上組陸運にまた同社を通じて被告神戸重量に右積荷の運送に関し何らの指揮監督もなす立場にはなかつたことが認められる。

従つて、被告上組と被告上組陸運との間に使用者と被用者との関係又は之と同視することができる関係があるとは認められないから、被告上組は下請人である被告上組陸運が更に再下請をさせた被告神戸重量の被用者の不法行為につき民法第七一五条第一項による責任はない。また被告上組は被告上組陸運乃至被告神戸重量を通じて事故車の運行を支配したことも認められないから、自賠法第三条による責任もない。

四  損害について判断する。

(一)  原告樽味宏関係

(1)  雑費

原告宏は雑費として一〇〇万円の支出があつたと主張するが、〔証拠略〕によつても、右金額の支出があつたことを肯認することはできない。ところで〔証拠略〕によると、原告宏は本件事故により幾らかの雑費の支出をしたことが認められるところ、〔証拠略〕によると、原告操は本件事故により昭和四二年九月九日から昭和四四年三月一四日までの間の三〇七日間、原告寿も同様昭和四二年九月一八日から同年一〇月四日まで及び昭和四三年七月八日から同月一六日まで合計二六日間各入院したことが認められ、その傷害の程度に鑑み夫、或は父として入院中諸雑費として一日当り三〇〇円を下らない支出を余儀なくされたであろうことは経験則上容易に推認できるところであるから、原告宏の支出した諸雑費は合計九万九九〇〇円の範囲で之を認めるのが相当である。

(2)  原告操、同寿の負傷による慰藉料について

「第三者の不法行為により身体を害された者の近親者(両親、配偶者、子等)は、そのために被害者が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して劣らない程度の精神的苦痛を受けたときに限り、民法第七〇九条、七一〇条に基づき自己の権利として慰藉料を請求できるものと解すべきである」が、原告操及び同寿は本件事故により前認定の傷害を受け、入院加療のうえ、前認定のとおりの後遺症を残し、そのため原告宏が妻操、子寿の受傷により多大の精神的苦痛を受けたことは推認されるところであり、就中、原告操の傷害の程度は、重く、その後遺症も多岐にわたるものがあるが、原告操はその後第二子を出産していることは同原告本人尋問の結果認められ、前認定の程度の傷害を以てしては原告の精神的苦痛が原告操及び同寿が生命を害された場合にも比肩すべきか、または右場合の比して著しく劣らない程度のものであるとは未だ認め難い。

よつて原告宏の原告操及び同寿の負傷による慰藉料請求は理由がない。

(二)  原告樽味操関係

(1)  逸失利益

先ず原告操は、逸失利益算定にあたつては、原告操は教職への再就職を遅くとも昭和四五年四月一日には予定していたから、本件事故後それまでは主婦としての収入、それ以後は公立小・中学校の教育職の給料を基礎に算出すべきであると主張する。成程〔証拠略〕を総合すると、原告操は神戸大学教育学部を昭和三六年三月に卒業し教育免許を得て神戸市内の中・小学校の教師として奉職していたところ、原告宏との間に原告寿が出生しその育児のため昭和四〇年一二月退職したが、原告寿が同操の手を離れる約五年程先には教職へ再就職する希望を有していたことは認められる。然し乍ら逸失利益の算定自体何等かの擬制は免れ難いところであるから、結局蓋然性の程度が大であることを基準として控え目に算定せざるをえないところ、原告操の右認定の教職復帰の希望があることだけでその希望する頃教職に復帰し教師としての給与を得ることができるとする程の高い蓋然性はないといわざるをえないから、原告操の教職復帰による逸失利益の請求は認容し難い。

(Ⅰ) 休業による損害

〔証拠略〕を総合すると、原告樽味操は、昭和一三年一二月二七日生れの本件事故当時満二九才の健康な主婦であり、労働大臣官房労務統計調査部作成の賃金構造基本統計調査報告昭和四二年版によれば、満二九才の全産業労働者の女子一人当り平均月間定期給与額二万三七〇〇円、平均年間賞与その他の特別給与額六万八〇〇円を下らぬものであることが認められるところ、本件事故による受傷のため前認定の症状固定の日である昭和四四年三月一四日まで家事労働に従うことができなかつたものと認めるのが相当であり、その間右金額相当の得べかりし利益を失つたものと認むべきである。その間の原告操の得べかりし利益は

(23,700円+60,800円/12)×19+(23,700円+60,800円/12)×23/30≒510,000円(1万円以下切捨)

合計五一〇、〇〇〇円を得ることができず、右同額の損害を蒙つたことが認められる。

(Ⅱ) 後遺症による損害

前記認定のとおり原告操は後遺症として昭和四四年三月一日を以て症状固定した左膝関節の著しい機能障害(伸度一七〇度、屈曲一五五度)、右眼窩部陥没、眼球位不均衡前頭部から右上眼瞼にかけての瘢痕による顔貌変形、頬骨骨折に基づく閉口障害、右眼球運動障害、極度の視力減退(〇・〇六以下)等を残し、右は各自賠法施行令第二条別表一〇級一〇、七級一二、九級六、一二級一、九級二、併合六級に該当するものと認められ、右症状の労働能力喪失率は労基準局長通達(昭和三二年七月二日基発第五五一号)によると六七パーセントで、右状態は症状固定日の翌日以降一五年間は継続することは当裁判所に顕著であり、この間右割合による労働能力を喪失したものと認められ、原告操が得た年間収益は三四万五二〇〇円であるから、右金額を基礎にしてホフマン式計算法(複式)に従い年五分の割合による中間利息を控除して一五年度の得べかりし利益の現在の価格を求めると二五四万円(一万円未満四捨五入)となる。

345,200×0.67×10,981≒254(万)

(2)  慰藉料

原告操が本件事故により多大の精神的苦痛を受けたことは容易に推認できるところであるが、前記認定の本件事故の態様、傷害の程度、治療期間、後遺障害、その他諸般の事情を考慮し二五〇万円を相当と認める。

(3)  原告寿の負傷による慰藉料について

前記原告宏関係(2)におけると同様の理由により原告操の同寿の負傷による慰藉料請求は認め難い。

(三)  原告樽味寿関係

(1)  逸失利益

原告寿は本件事故により後遺症として顔面に前記認定のような傷痕を残したから将来の逸失利益を請求する旨主張する。し然乍ら原告寿の顔面に前記認定の如き傷痕を残すことが直ちに同人の将来における労働能力の喪失を招くとは認め難いから、右主張は採用し難いが、この点は慰藉料額の算定において斟酌する。

(2)  慰藉料

原告寿が本件事故により多大の精神的苦痛を受けたことは容易に推認できるところであるが、前記認定の本件事故の態様、傷害の程度、治療期間、後遺障害その他諸般の事情を考慮し五〇万円を相当と認める。

(3)  原告操の負傷による慰藉料について

前記原告宏関係(2)におけると同様の理由により原告寿の同操の負傷による慰藉料請求は認め難い。

(四)  原告越智寿恵子関係

原告操の負傷による慰藉料について

前記原告宏関係(2)におけると同様の理由により原告越智寿恵子の同操の負傷による慰藉料請求は認め難い。

(五)  過失相殺の主張について

被告神戸重量及び同上組は、本件事故発生場所付近は歩行者にとつて危険な道路で近くに安全な道路があるのに原告操及び同寿は危険な本件道路を家族連で通行していたから、原告操及び同寿の過失斟酌すべき旨主張する。しかし前記認定の事実によると、本件道路は歩行者にとつて通行危険な道路とはいえないし、また原告操及び同寿は本件道路の左側端に避譲していたのであるから、同人らが本件道路を通行していたことを以つて同人らに過失ありとは認め難く、右主張は採用するに由ないものである。

(六)  弁済

被告神戸重量は本件事故により新須磨病院等合計一九八万九八三八円を支払つた旨主張し、被告神戸重量代表者尋問の結果中之にそう部分があり仮りに右事実が認められるとしても、同被告の主張金員は療養関係費で本訴請求外の金員であるから之を控除する必要はない。

(七)  損害の一部填補

原告操は自賠責保険金から後遺障害補償費として一五〇万円原告寿は同様慰藉料五万円、後遺障害補償費三一万円の給付を受けたことは被告神戸重量同三菱重工において争わないところであるから、同人らの右損害金中から之を控除すべきであり、之を控除するときは損害残金原告操四〇五万円、原告寿一四万円となる。

五  結論

よつて原告らの本訴請求は被告神戸重量及び同三菱重工は各自原告樽味宏に対し金九万九九〇〇円、同樽味操に対し金四〇五万円、同樽味寿に対し金一四万円及び右各金員に対する事故発生の日の翌日である昭和四二年九月一〇日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、原告樽味宏、同樽味操、同樽味寿の被告神戸重量、同三菱重工に対する請求及び原告越智寿穂子の請求はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法第九二条、第九三条、第八九条、仮執行証言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松浦豊久 鈴木清子 小山邦和)

別表一 中学校、小学校教育職給料表2等級(昭和45年4月1日より改訂されたもの)

<省略>

別表二 中学校、小学校教育職給料表2等級(昭和46年5月より改訂されたもの)

<省略>

別表三 中学校、小学校教育職給料表2等級(昭和47年4月1日より改訂されたもの)

<省略>

別表四

<省略>

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